(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ポップナイ沢
pop-nay?
水の湧き上がる音・川
水の湧き上がる音・川
(? = 旧地図等に記載あり、既存説に疑問あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地理院地図によると、航空写真で見ても、ゴルフコースにしては荒れた感じがあるので、既に営業を終了して久しいのでしょうか(ググると 2011 年に破産申し立てとの情報が見つかりました)。
「ポップナイ沢」は、頗美宇川の東支流で、かつてのゴルフコースの北を流れています。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川名が見当たらず、『北海道実測切図』(1895 頃) にはそれらしい川が描かれているものの、川名の記入はありません。
ところが、意外なことに戊午日誌 (1859-1863) 「安都摩日誌」には次のように記されていました。
また並びて
ポツプナイ
同じく右の方小川。此処水が地中より涌出よし也、依て号るとかや。ホツフは涌立と云儀のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.473 より引用)
『地名アイヌ語小辞典』(1956) には pop は「擬声音,ポッポッと沸騰する音」や「水の湧き上る音」とあり、『アイヌ語沙流方言辞典』(1996) には pop は自動詞で「煮立つ」を意味するとあります。松浦武四郎も「ホツフは涌立と云儀のよし」と書いているので、認識に相違はなさそうです。pop-nay で「煮立つ・川」ということになるでしょうか。温泉のようにも思えますが、地形図には温泉マークは見当たりません。ただ pop を「水の湧き上る音」と考えれば pop-nay は「水の湧き上がる音・川」となり、必ずしも温泉である必然性は無くなるのかもしれません。
もしかしたら元は po-pinnay で「小さな・谷川」あたりで、それが転訛して「ポップナイ」となり、それらしいストーリーが後付で用意された……という可能性もあるかもしれません。
ただ『北海道地名誌』(1975) には次のように記されているので……
ホップナイ沢 頗美宇川上流左小沢。普通石油沢といっている。
(NHK 北海道本部・編『北海道地名誌』北海教育評論社 p.541 より引用)
何かがあった……としても不思議はない名前ではありますね。ただ「石油会社が所有する土地」を流れていたというオチの可能性もゼロではないので……。メナノ沢川
mena?
上流の細い枝川
上流の細い枝川
(? = 旧地図等に記載あり、既存説に疑問あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
厚真町字富里(かつてのトニカ)から道道 933 号「北進平取線」を 3.2 km ほど東に向かったところに「『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「メナ」と描かれていましたが、『北海道実測切図』(1895 頃) にはそれらしい川が描かれているものの、川名の記入はありません。
戊午日誌 (1859-1863) 「安都摩日誌」には次のように記されていました。「ホロナイ」(日高幌内川?)よりも後(=上流側)に記されているので、位置認識が少々怪しいですが……。
また少し過て
メ ナ
西岸コムンノホリの上に有小沢也。メナは松前の方言、少しのひらけし沢の事也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.476 より引用)
「メナ」は道南エリアに多い印象がありますが、意味するところが今ひとつよくわからない地名のひとつです。松浦武四郎は「松前の方言」として「少しのひらけし沢」としていますが、頭註には「メム=水溜り」「ナイ=沢」とあります。『地名アイヌ語小辞典』(1956) には次のように記されていました。
mena メな ①上流の細い枝川。②【シズナイ】たまり水。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.59 より引用)
「メナの沢川」は、現地の地形を見た限りでは mena で「上流の細い枝川」という解釈が一番しっくり来るでしょうか。ただ、この川は途中で二手に分かれているようにも見えるので、松浦武四郎の言う「少しのひらけし沢」との関連も気になるところです。もう少しサンプル数を増やしてから改めて検討したいですね。オコッコ沢川
o-u-kot-kot?
河口・お互い・くっついている・沢
河口・お互い・くっついている・沢
(? = 旧地図等に記載あり、既存説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「メナの沢川」から厚真川を 1 km ほど遡ったところで南から合流する支流です。この川を遡った先に「鬼子」という名前の四等三角点があり(標高 245.3 m)、これは「おにこ」と読むとのこと。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ヲエツコ」とありますが、『北海道実測切図』(1895 頃) には似た流路の川が描かれているものの、川名の記入がありません。
戊午日誌 (1859-1863) 「安都摩日誌」には次のように記されていました。
また其上に
ヲコツコ
東岸小沢の流れ有。其名義昔し大蛇住みしと云処の事也。ヲコツコは恐ろしきと云事のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.475 より引用)
どうやら「東西蝦夷──」の「ヲ「ヲコツコは恐ろしきと云事」とあるのは「???」ですが……、萱野さんの辞書には次のように記されていました。
オコッコ【okokko】
化け物,亡霊,幽霊,妖怪.
(萱野茂『萱野茂のアイヌ語辞典』三省堂 p.170 より引用)
そして、なんとバチェラーの辞書にも次のように記されていました。Okokko, n. A snake. Jap. Hebi. 蛇。
(ジョン・バチェラー『蝦和英三對辭書』国書刊行会 p.169 より引用)
松浦武四郎やバチェラーが「蛇」と明記しているのに対し、後の辞書類での解釈は「化物」となっているのが面白いですよね。ただ、地名(川名)に「蛇の化物」というのは流石に無いかなぁと考えたいところです。ということで『北海道地名誌』(1975) を見てみると……
オコッコ沢 厚真川上流の左小沢。川口がくっついている川の意。
(NHK 北海道本部・編『北海道地名誌』北海教育評論社 p.540 より引用)
個人的には、かなり「ありそうな」解に思えます。「河口がくっついている川」は o-u-kot-pe で「河口・お互い・くっついている・もの(川)」となるケースが多いですが、kot には「ついている」という他動詞以外にも「沢」や「谷」を意味する名詞でもあるので、o-u-kot-kot で「河口・お互い・くっついている・沢」だったのではないでしょうか。‹ 前の記事
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