2026年10月18日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1450) 「虚無僧山・メルクンナイ沢」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

虚無僧山(こむすやま)

kom-nupuri??
曲がり・山
(?? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
厚真町字富里と字幌内の間、「メナの沢川」の西の山に「虚無僧山」という三等三角点が存在します(標高 197.4 m)。このあたりでは珍しく「成果不良点」ではない三角点です。

なぜ今頃……という話ですが、見落としてました(汗)。本州とかだとあちこちに「虚空蔵山」があるので、そこから借用した名前だと早合点していたのですが、なんと『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「コムニノホリ」とありました。


また 『北海道実測切図』(1895 頃) にも「コムヌプリ」とあります。


戊午日誌 (1859-1863) 「安都摩日誌」にも次のように記されていました。

また向岸に
     コムンノホリ
西岸の山なり、槲柏多きより号。コムニノホリの訛りし也と。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.476 より引用)
komni で「柏の木」を意味するので komni-nupuri で「柏の木・山」と読めそう……ですが、改めて知里さんの『植物編』(1976) を見てみると、kom-ni は《足寄,屈斜路,美幌,名寄》《A 石狩・十勝》とあります(「A」は宮部金吾・神保小虎「北海道アイヌ語 植物名詳表」より)。

これを見る限り、komni は主に東のほうで使われた言い回しだった可能性がありそうです(いわゆる「メナシクㇽ」のエリア)。なお《幌別,穂別》《A 沙流・鵡川・千歳・有珠》では、「柏の木」は komni ではなく tunni が使われていたとあります。

実はこの「虚無僧山」、かなり特徴的な地形をしています。大きく山が抉(えぐ)られているのですが、これは厚真川が何千年、あるいは何万年もかけて削ってきたものに見えます。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
この地形と「コムヌプリ」というネーミングからは、kom-nupuri で「曲がり・山」ではないかと思わせます。

地名では komke で「曲がっている」を使うことが多いという点で若干の疑念もありますが、『地名アイヌ語小辞典』(1956) には kom が「①鍋のつるの両端の曲り。②どんぐり; ナラやカシワの実」とあるので、kom-us-nupuri で「鍋のつるの両端の曲がり・ついている・山」だった可能性も考えられるかもしれません。

メルクンナイ沢

{me-an}-ru-kus-nay?
{寒気・ある}・路・通行する・川
(? = 旧地図等に記載あり、既存説に疑問あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
厚真ダム(1970 年竣工)のすぐ上流側で、南東から厚真川に合流する支流です。メルクンナイ沢の下流部はダム湖になっていて、ダム湖の南に道道 933 号「北進平取線」の「メルクンナイトンネル」が存在します。

『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「メルク(?)シナイ」という川が描かれているように見えます。


『北海道実測切図』(1895 頃) には「メルクンナイ」と描かれていました。


メルは寒気、クンは凍る?

戊午日誌 (1859-1863) 「安都摩日誌」には次のように記されていました。

また少し上り東
     メルクンナイ
山間の小川也。其名義メルは寒気の事也、クンは氷ると云義也。此沢寒気甚しきによつて早く凍ると云儀のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.479 より引用)※ 原文ママ
「メルは寒気の事なり」とありますが、手元の辞書類を見る限りでは「寒気」を意味する語根は me だとされます。また『地名アイヌ語小辞典』(1956) によると、「氷」を意味する konru という語があるとのこと(和語からの移入語彙でしょうか)。

となると……「メルクン──」ではなく「メクンル──」であれば me-konru-nay で「寒気・凍る・川」と読めそうでしょうか。ただ『小辞典』には konru は「日常語」とあり、和語「氷」との類似性を考えるとそれほど古い語彙とも思えないため、地名の一部となり得たかどうかは疑問もあります。

『アイヌ語沙流方言辞典』(1996) には rukunne という自動詞が立項されていて、これは ru-kunne で「やや・黒い」とのこと。me-rukunne-nay であれば「寒気・やや黒い・川」ということになるでしょうか。

寒気のする峠道の川?

あるいは me-ru-kus-nay で「寒気・路・通行する・川」と考えることは可能でしょうか。ru-kus-nay は「峠道の川」を意味する言い回しで、地名としてはかなり頻出するものです。

もっともこの形は文法的に問題も残るのですが、{me-an}-ru-kus-nay で「{寒気・ある}・路・通行する・川」だったものから -an が抜け落ちたとすれば(都合の良い想定ですが)一応はクリアできそうな気もします。

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