2025年5月31日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1240) 「ルベシュペ川・キプチ川・奴多布」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ルベシュペ川

ru-pes-pe?
路・それに沿って下る・もの(川)
(? = 旧地図に記載あり、既存説に疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
様似郡様似町と幌泉郡えりも町の間を流れる「ニカンベツ川」の北支流です(様似町側)。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ルヘシベ」とあり、『北海道実測切図』(1895 頃) には「ルペㇱュペ」と描かれています。

『午手控』(1858) に次のような記録がありました。

○ニカンベツ 凡十丁計
 二股 左ルヘシベ
    右シュマウシ
    ルヘシヘ
 本川、中 ルヘシヘ右小川 二股
 右シイニカンヘツ
    左ヘタヌ
(松浦武四郎・著 秋葉実・翻刻・編『松浦武四郎選集 六』北海道出版企画センター p.125 より引用)
「ルヘシベ」と「ルヘシヘ」があるあたり、どことなく混乱が見られるようにも思えますが、「東西蝦夷──」および『北海道実測切図』と照らし合わせると納得が行く……かもしれません。

現在の川名である「ルベシュペ」は ru-pes-pe で「路・それに沿って下る・もの(川)」で、峠道に沿った川の名前です。ルベシュペ川は大きく蛇行することなく北から南に流れる川で、川を遡って峠を越えると「幌満ダム」の東側に出るので、確かに峠道としては悪くない川であるように思えます。

ただ『午手控』には次のようにも記されていました。

 源二ツともにサルヽ源のよし也
(松浦武四郎・著 秋葉実・翻刻・編『松浦武四郎選集 六』北海道出版企画センター p.125 より引用)
これは現在の「ニカンベツ川」と「ポンニカンベツ川」のどちらを遡っても「猿留川」の流域に出ることを示しています。どちらも脊梁山脈を越える峠で、峠道としての効果(価値)は現在の「ルベシュペ川」よりも遥かに大きいように思えます。

『午手控』の「左ルヘシベ 右シュマウシ」が左右逆だったとすればスッキリ解決なのですが、「実測切図」も「左ルヘシベ」を追認した形で描かれているのが悩ましいところです。

キプチ川

kip-puchi??
山・入口
(?? = 旧地図に記載あり、独自説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ルベシュペ川の東支流で、『北海道実測切図』(1895 頃) にも「キㇷ゚チ」と描かれています。陸軍図でも「キプチ澤」と描かれていました。

北海道地名誌』(1975) には次のように記されていました。

 キプチ沢 ルベシュベ川左支流沢。意味不明。
(NHK 北海道本部・編『北海道地名誌』北海教育評論社 p.580 より引用)※ 原文ママ
まぁ、そうなりますよねぇ……。気持ちはわかります。

ということで、「キㇷ゚チ」という音から意味を考えるしか無いのですが、kip-puchi で「山・入口」とかでしょうか……(kip は「前頭ぜんとう」ではなく kim「山」の変形)。

キプチ川の流域はルベシュペ川に匹敵するくらいの広さがあり、西が海で東を内陸と考えた場合、内陸側に広がっていると言えます。そのことを指した地名で、それが川名に転用されたのかな……と考えてみました。

奴多布(ぬたっぷ)

nutap-so?
川沿い岩崖の上の平地・滝
(? = 旧地図に記載あり、既存説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ニカンベツ川を水源まで遡った先の脊梁山脈上に「奴多布」という名前の三等三角点(標高 1005.3 m)が存在します(現在、三角点の所在地はえりも町側)。

北海道実測切図』(1895 頃) には、ニカンベツ川の源流部に「ヌタㇷ゚ソー」と描かれています。nutap-so という滝があり、そこから「奴多布」三角点が命名されたように見えます。

三角点の「点の記」には、所在を「北海道日高国様似郡様似村大字誓内村字ヌタプソー」と記しています。当初は様似村の領域内という認識だったようです。

nutap は地方によってニュアンスが異なる難解な語のひとつで、山の中に出てくるのは不思議な感じもするのですが、『地名アイヌ語小辞典』(1956) には次のように記されていました。

nutap, -i ヌたㇷ゚ ①川の彎曲内の土地。 ②【ナヨロ】山下の川ぞいの平地。③【サマニ】川ぞいの岩崖の上の平地。kim-un-~山奥の峰の上の岩原。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.70 より引用)
……。まるでこちらの戸惑いを見透かしたかのような記述ですね。nutap は「サマニ」では「川ぞいの岩崖の上の平地」を意味するとのこと。どうやら nutap-so は「川沿い岩崖の上の平地・滝」と見て良さそうな感じですね。nutapso の間に何らかの動詞(unoma など?)が含まれていたのが略されたのかもしれません。

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