2026年4月11日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1368) 「シドニ川・ストウニ川・ウエンハエシナイ沢川・ペンケハユシニナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

シドニ川

situ-un-i?
大きな尾根・そこに入る・もの
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
オソウシノ沢川」の河口の東(上流側)で額平川に南東から合流する支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) には「シユト゚ニ」と描かれていますが、『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川名が見当たりません。このあたりではそこそこ長い支流なんですが……。


永田地名解 (1891) にもそれらしい川の記録が見当たらないのですが、額平川筋の記録はちょくちょく抜けがあるっぽいので、それほど不思議はありません。

戊午日誌 (1859-1863) 「左留日誌」には次のように記されていました。

また少し上り
     シヨトニ
同じく方小川、其名義不解なり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.36 より引用)
うむむ……。「シヨトニ」あるいは「シユト゚ニ」ですが、situ-un-i で「大きな尾根・そこに入る・もの」だったんじゃないでしょうか。

「シドニ川」を遡った先に「寿都似山」(すとうにやま)という山があり、この山は西にとても長い尾根が伸びています。その頂上付近には「寿都似山」三等三角点(標高 1,010.8 m)があり、「点の記」には「スツニヤマ」とルビが振ってあります。

「スツニ」を素直に解釈すると sut-un-i で「麓・そこに入る・もの」とも読めるのですが、現地の地形を考慮すると sut よりも situ のほうが適切じゃないかなーと思います。

ストウニ川

situ-un-i?
大きな尾根・そこに入る・もの
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「シドニ川」は上流部で二手に分かれていて、国土数値情報によると南側の支流が「ストウニ川」とのこと。「寿都似山すとうにやま」三角点の所在地は「俗稱スツニ山」とありますが、これを現代風に「ストゥニ山」と表記したものが、いつの間にか川名に再転用された……とかでしょうか。

「ストウニ川」と呼ばれるようになった正確な経緯は不明ですが、situ-un-i で「大きな尾根・そこに入る・もの」のバリエーションの一つと見て良いんじゃないでしょうか。

ウエンハエシナイ沢川

panke-ay-us-ninar?
川下側の・カジキの上顎・ついている・高台
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「シドニ川」河口の北東(上流側)で北から額平川に合流する支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) には「ハユシニナラ」と描かれていますが、この川名はむしろ東隣の「ペンケハシュニナラ川」に似ています。ただ、位置的には「ウエンハエシナイ沢川」に該当しそうです。


台地? 川岸の平地? 川沿いの原野?

やはりと言うべきか、戊午日誌 (1859-1863) 「左留日誌」には次のように記されていました。

また少し計上りて
     ハンケアユウシニナラ
     ヘンケアユウシニナラ
左りの方相応の川のよし。上の方少し小さし。其名義は蕁麻多く有る木立原と云儀のよし。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.36 より引用)
どうやら panke-ay-us-ninar で「川下側の・イラクサ・多くある・台地」ではないかとのこと。ninar は解釈に苦慮する語で、『地名アイヌ語小辞典』(1956) にも次のように記されています。

ninar, -i/-u ニなㇽ ①【ホロベツ】土地が一段高くなってどこまでも平坦に続いている所;台地。②【ナヨロ】片側が山になっている川岸の平地。[語原はたぶん ni-nar 〔に・ナㇽ〕,ni は ri の訛りで高いの意,nar は,日本で山中の平地を云うとあるナル(ナラ,ナロ,ノロ)と関係があろう。] ③【チカブミ】川沿いの原野。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.66 より引用)
「幌別」「名寄」「近文」とありますが、さて平取ではどれを選ぶべきでしょう。一番近いのは「幌別」ですが……。

イラクサ? カジキの上顎?

ninar をどう解釈するかが難しいのですが、「蕁麻イラクサ」にも注意を払いたいところです。ここはかなり山深いところで、敢えて「イラクサの生えている高台」と呼ぶ必然性はあったのだろうか……と。

改めて『地名アイヌ語小辞典』を見てみると、そこには……

ay, -e【H】/-he【K】あィ ①矢。②とげ。③イラクサ。④カジキマグロの‘つの’(上あごが突出して剣状をなすもの)。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.12 より引用)
あ……! そうか、そういうことか……! 地形図を見てみると……

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
かなり尖った尾根が河口のすぐ傍まで伸びています。念のため「ヘンケアユウシニナラ」こと「ペンケハユシニナイ川」も見てみると……

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
こちらもなかなかいい感じです。川の横に聳える長く鋭い尾根を「カジキの上顎」に見立てた……ということだったんじゃないでしょうか。panke-ay-us-ninar で「川下側の・カジキの上顎・ついている・高台」だったのではないかと。

平取本町に「ハヨピラ」という崖(高台)がありますが、これも「カジキの上顎」に由来するという説があったと記憶しています。そんなことある? と思ってしまいますが、類例?を見てしまうと確信に変わりますね……!

現在の川名は「ウエン──」ですが、wen は「良くない」あるいは「悪い」を意味します。危険がある、あるいは実際に事故があったのでそう呼ばれるようになった……のかもしれません。

ペンケハユシニナイ川(ペンケハシュニナラ川)

penke-ay-us-ninar?
川上側の・カジキの上顎・ついている・高台
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「ウエンハエシナイ沢川」の河口から額平川を 3 km ほど遡ったところで北から合流する支流です。地理院地図では「ペンケハユシニナイ川」で国土数値情報では「ペンケハシュニナラ川」です。

「ストウニ川」に引き続き出落ち感が凄いですが、これは penke-ay-us-ninar で「川上側の・カジキの上顎・ついている・高台」なんでしょうね。

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