2026年4月12日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1369) 「ペンケメウシュナイ沢」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ペンケメウシュナイ沢

penke-mekka-us-nay??
川上側の・背筋・ついている・川
(?? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ペンケハユシニナイ川」の 2 km ほど東で北から額平川に合流する(短い)支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) には「ペンケメウㇱュナイ」と描かれていました。よく見ると、現在の「ペンケメウシュナイ沢」の位置ではなく、もう少し西側に存在していたようです。現在の「ペンケメウシュナイ沢」の位置には「ポロピナイ」と描かれていました。


東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「メウシナイ」とだけあります。


戊午日誌 (1859-1863) 「左留日誌」には次のように記されていました。

しばし過て
     メウシナイ
左りの方小川、メウシは冷き事也。此処いつにても日陰にして有りと。よつて此処え来るにいつも鬚髪も皆凍るよし也、依て号るとかや。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.36 より引用)
penke-me-us-nay で「川上側の・寒気・ある・川」ではないかとのこと。「寒い」というのは感覚的なものなので、地名としてはどうなの……? と思ったりもするのですが……。額平川筋の「左留日誌」に頓珍漢な解釈が少なくないのも気になるところです。

背すじ、鼻すじ、ぼんのくぼ

改めて地形図を眺めてみたのですが、やはり「寒気のある川」はどう考えてもおかしいように思えます(感覚を地名解に持ち込むなと言われると返す言葉が無いのですが)。

困った時の『地名アイヌ語小辞典』(1956) というのもいかがなものか……という話もありますが、次のような項目がありました。

mek-ka, -si めㇰカ ①物の背すじ;背線。etu~〔エと゚メㇰカ〕鼻すじ。emus-~〔エむㇱメㇰカ〕刀のみね。nupuri-~〔ヌぷりメㇰカ〕山の尾根。②【K(シラウラ)】沢と沢との間に細くのびている山。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.59 より引用)
多くの辞書には mekka とあるのですが、『地名アイヌ語小辞典』は mek-ka ではないか……としています。他に mek-ka かもしれないとしたのが『アイヌ語沙流方言辞典』(1996) で、次のように記されていました。

mekka メッカ【位名】[mek-ka (?) ・の上]……の上側(山の尾根のように左右よりも高い所がある長さを持っているような場合にその上を言うらしい)。
(田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』草風館 p.384 より引用)
知里さんによると mekka は「物の背すじ」を意味するとのことですが、『アイヌ語方言辞典』(1964) によると(帯広では)「背すじ」を mecíp と呼ぶとのこと。

面白いことに、『アイヌ語沙流方言辞典』にも mecip が立項されているのですが……

mecip メチㇷ゚【名】[概](所は mecipi(hi)メチピ(ヒ))[me-cip(?)舟](?)ぼんのくぼ(「首筋の 2 本の筋間のくぼんだ所」=okrici ukowturke オㇰリチ ウコウトゥㇽケ)。(S)〔知分類 p.222 mechip((タライカ))すね。
(田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』草風館 p.383 より引用)
こちらは「背筋」ではなく「ぼんのくぼ」に限定されるとのこと。ところがまだ続きがあり……

参考・─北海道のホロベツに……その意味わ殆ど忘れられ、わずかに土地の古老が「背すじ」のことでわないかと云うのみである((民研資料 II, p.56))〕
(田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』草風館 p.383 より引用)
ホロベツ」「わ」と来れば……これは知里さんの文章でしょうね。

mek という謎の語

さて、田村さんは mekkamek-ka であるかもしれないとし、mecipme-cip かもしれないと考えたようですが、肝心の? mek あるいは me は (?) としています。そこで私もちょっと考えてみたのですが、mecipme も実は mek だった可能性があるんじゃないかと。

mek-ka は「物の背すじ」で etu-{mek-ka} が「鼻すじ」、そして「背すじ」あるいは「ぼんのくぼ」とされる me-cipmek-cip かもしれないとなると、mek は「骨」や「芯」と言ったニュアンスを有していた可能性があるんじゃないか……と思えてきました。

改めて辞書類を見てみると、「骨」を意味する語は pone が一般的のようです。『アイヌ語方言辞典』でも樺太で poni とある以外は poné で、なんと『藻汐草』(1804) にも「ポネ」とあります。明らかに「骨」とそっくりなので、和語からの移入語彙である可能性がありそうです。

mek に「骨」という意味があった……とは断言はできませんが、「メウシナイ」が {mek-ka}-us-nay-ka が落ちた……という話にすれば「筋が通る」と言えなくもないかもしれません。

mekka-us-nay であれば「背筋・ついている・川」ということになりますが、どちらかと言えば知里さんが『小辞典』で【K(シラウラ)】とした「沢と沢の間に細くのびている山」というニュアンスのほうがより合致しそうに思えます。

そして mek-us-nay で「小骨・ついている・川」だったんじゃないかなぁ……というのが現段階での(根拠を欠いた)「想像」です。すぐ近くに「カジキの上顎のついた川」があるというのも「小骨」説の伏線になっていたりするんですよね。

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