2026年6月27日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1401) 「珍川・ライバチン川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。


(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

珍川(ちんがわ)

chimi-i?
かき分ける・もの(川)
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)


(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

鵡川の河口から 1.2 km ほど遡ったところで南東から合流する支流です(地理院地図では「珍川」ですが国土数値情報では「チン川」)。『東西蝦夷山川地理取調図』には「チン」と描かれています。

https://kenzkenz.jp/oh3/?s=FR5fqnhにも「チン」と描かれていました。一貫して「チン」と認識されていたようですね。

戊午日誌「武加和日誌」には次のように記されていました。

其名義は往昔此処の惣乙名某なる者、松前え領主の拝謁に行、矮狗チン(原注)を一疋もらひ帰りしが、何とせしや此処に失たりと。実にあまり不思儀に思ひ、処名とせしとかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.495 より引用)

アイヌが松前に詣でて子犬を貰って帰ったがここで逃げられてしまった……ということだそうですが……、続きもあります。

また一説には、矮狗の画とも云へり、依て号と。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.495 より引用)

失くしたのは「子犬」ではなく「子犬の絵」という説もあるとのこと。まぁ、いずれにしても作り話っぽい感じが……。

一方、永田地名解には次のように記されていました。

Chin   チン   熊皮ヲ乾ス處 石狩上川ニ同名ノ地アリ
(永田方正『北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.210 より引用)

確かに「地名アイヌ語小辞典」にも次のようにあるのですが……

chin ちン 《不完》(皮を)張る; 張り枠に張る。i-ri wa i-~ 皮を剥いで張り枠に張った。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.18 より引用)

よく見ると chin は不完動詞なので、chin-i で「皮を張る・ところ」とかにする必要があるのかもしれません。

「皮を張る」というのは、獣の皮を枠に張って(突っ張って)乾かすという作業のことだと思うのですが、果たしてその作業は「珍川」で行う必要があったのでしょうか。「獣の皮を乾かす」という作業を「珍川」でしか行われないのであればそれが地名となるのも理解できるのですが……(特定の作業を行う場所が地名化する例が少なからずあることは認識しています)。

ということで、chin ではなく chimi という可能性は無いかな……と思い始めています。「地名アイヌ語小辞典」には「左右にかき分ける」とありますが、これまで見てきた感じでは、指を広げて粘土を掻きむしったような地形に良く見られるような印象があります。

別の言い方をすれば
  • 若干の高低差
  • 複数の支流
あたりが「条件」になりそうでしょうか。現在の地形図を見る限りでは条件を満たしていないようにも思えますが、陸軍図ではちょっとだけそれっぽい雰囲気もあるような……?

ということで、元は chimi-i で「かき分ける・もの(川)」だったんじゃないかなぁ……と考えてみました。chimi-ichimi となり、更に原義が失われて chim に略されてしまったのかなぁ……という想像です。

ライバチン川

ray-pa-{chin}?
死んだ・口・{珍川}
(? = 旧地図等に記載あり、既存説、類型未確認)


(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

珍川の南支流で、日高本線の汐見駅(廃止済み)の北東を流れています。『北海道実測切図』には「ライチン」と描かれています。

戊午日誌「武加和日誌」には次のように記されていました。

凡廿丁にして
     ライバチン
是東岸の少し高みに小川有、是を号。是昔のチンの川すじなりとかや。ライバは死だと云儀。今廃れたチンの川と云儀かと思はる。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.495 より引用)

ray は「死ぬ」を意味し、地名では「涸れ川」を指す場合と「流れの停滞した川」を指す場合があるとされています。「地名アイヌ語小辞典」には ray-pa という項目もあるのですが……

ray-pa らィパ ①谷川の口。[<nay-pa] 。②古川の口。[死んだ・口]
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.106 より引用)

今回のケースだと②が近いでしょうか。なぜ pa(河口)が含まれるのかが釈然としないのですが、松浦武四郎は鵡川沿いを移動していたと考えられるので、「あれが涸れた昔の珍川の河口です」と案内された……とかでしょうか。

ray-pa-{chin} で「死んだ・口・{珍川}」ということだと思いますが……やっぱり -pa に疑問が残ります。実測切図の「ライチン」が正解なのであればスッキリするのですが……。というか、そもそも何故「涸れ川」が「川」として現存しているのかという根本的な話が先……?

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