2026年7月26日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1414) 「ペンケルベシベ沢川・カイクマ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ペンケルベシベ沢川

penke-ru-pes-pe?
川上側・路・それに沿って下る・もの(川)
(? = 旧地図等に記載あるが位置に疑問あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
むかわ町穂別和泉を流れるルベシベ川の東支流で、パンケルベシベ沢川よりも 3 km ほど北東でルベシベ川に合流しています。

北海道実測切図』(1895 頃) には「ミルペㇱュペ」という川が描かれていますが、途中で少なくとも二手に分かれているため、現在の地形図とは無視できないレベルの相違があります。


「ミ」は「シ」の転記ミスかと思ったのですが、戊午日誌 (1859-1863) 「武加和日誌」には次のように記されていました。

 また少し上りて
      ヲミルベシベ
 右の方小川也。其名義しらず。何れ山越の事を申せしものかと思はる。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.547 より引用)
……!? これまた良く分からない地名が……と思ったのですが、頭註には次のようにありました。

トミルベシベ?
軍に越える
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.547 より引用)
あ、いいヒントを貰えたかもしれません。tumi は「戦争」を意味しますが、それよりも位置名詞の tomo だと考えるのが自然に思えますし、実際にそう呼べそうな位置にある川です。tomo-ru-pes-pe で「中間にある・路・それに沿って下る・もの(川)」だったのではないでしょうか。

そもそも『北海道実測切図』の「ミルペㇱュペ」が現在の「ペンケルベシベ沢川」と同一であるかどうかは(前述の通り)疑義が残るのですが、かつての「モルペㇱュペ」にして現在は「パンケルベシベ沢川」と対になる形で、現在は penke-ru-pes-pe で「川上側・路・それに沿って下る・もの(川)」と呼ばれている……ということになりそうですね。

カイクマ川

kay-kuma??
折れた・横山
(?? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
むかわ町穂別和泉、町道上キナウス線の「豊田橋」の北で鵡川に合流する東支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川が見当たらないようにも思えますが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「カイクマ」と描かれていました。ただこの描かれ方は地名扱いのようで、川名では無さそうな感じです。


戊午日誌 (1859-1863) 「武加和日誌」には次のように記されていました。

扨我は此処に舟を置、是より村の上三丁計上りて
     カイクマ
左りの方、ルベシベの村の三丁計上少しの山の上の事也。其名義は昔し枯柴を薪に取りしと云事の由なり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.550 より引用)
アイヌ語沙流方言辞典』(1996) によると、kaykuma は「たきつけにする細い木、たきぎ、柴」とのこと。『地名アイヌ語小辞典』(1956) にも次のように記されていました。

焚火にするため細長い木を適当の長さに折ったものを「かィクマ」(kay-kuma 折れ・棒)と称する。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.54 より引用)
どうやら確かに「焚き木」と見て良さそうな感じです。ですが……果たして本当にそうなのでしょうか? というのも、焚き木を取るだけであれば、別にどこでも良いような気がするのです。「焚き木はカイクマ(産)に限る」という落語のような話があれば別ですが……。

ということで、改めて地形図を眺めてみると……。少なくとも「カイクマ川」の南に kuma と呼ぶべき地形が存在していました。kuma について、『地名アイヌ語小辞典』には次のように記されています。

kuma クま ①両方に柱を立ててその上に横棒を渡し,それに肉をかけて乾す施設;肉乾棚。②横山。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.53 より引用)
『小辞典』には、横に渡した棒に魚をひもで吊るして干物にしている絵が挿入されていました。kuma は物干し竿と同じようなもので、地形においては「横に長い(竿のような)山」を指すとされます。カイクマ川の南の山が明らかに「物干し竿のような山」ですが、他にも細長い山がいくつもあるように見えます。

kay は「カイカウニ沢川」の回でも記しましたが、『小辞典』にも様々な解釈が記されています。

kay かィ 《完》折れる; 折れくだける。
kay かィ 《不完》おんぶする; 背負う。
kay, -e(H)/-he(K) かィ 折れ波。
kay, -he かィ 【K】大網膜;腹膜。
kaya カや 帆。~-ni 帆柱。
kay-e [複 kay-pa] カいェ 《不完》折る。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.44 より引用)
これを見て「横に長い山を背負う……かな?」と思ったのですが、その場合は語順が kuma-kay になりそうなので、残念ながら(?)NG ですね。どうやら素直に kay-kuma で「折れた・横山」と見るべきなのでしょう。

kay は「折れた」としましたが、これは kuma(横山)がもともと「横棒」に由来することからの連想……とも言えるかもしれません。

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